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Tomizo Jinno

動画・映像マーケティングへの間違った期待

動画・映像制作業界で仕事をしていると、昨今のインターネットに掲載する動画・映像コンテンツへの期待値とその結果のギャップが目につきます。その動画戦略が綿密なマーケティング戦略に乗っているように見えて、案外根本的な認識ができていない例が散見されるからです。



「動画は必ず視聴者の興味を引く」という誤解


確かに動画は注目を集めやすい形式ですが、コンテンツの質が伴わなければ、むしろ逆効果になることも少なくありません。実際、多くの視聴者は低品質な動画コンテンツに対して、数秒で視聴を中断する傾向があります。視聴開始から最初の10秒間で約20%の視聴者が離脱するというデータもあります。つまり、単に「動画にすれば見てもらえる」という考えは大きな誤りと言えます。



「若い世代は文字より動画を好む」という一般化の問題


確かにSNSなどでショート動画の消費は増えていますが、これは娯楽性の高いコンテンツに限った傾向です。学習や仕事に関する情報収集では、むしろテキストベースの情報を好む若者も多く存在します。特に専門的な知識や複雑な概念の理解においては、自分のペースで読み返せるテキストの方が効果的だと考える若者は少なくありません。



「動画は記憶に残りやすい」という文脈を無視した単純化


確かに視覚と聴覚の両方を使用する動画は、単一の感覚のみを使用する媒体より記憶に残りやすい場合があります。しかし、これは条件付きの効果です。例えば、情報が過剰に盛り込まれた動画や、視覚情報と音声情報が適切に同期していない動画は、かえって記憶の妨げになることがあります。また、個人の学習スタイルによっては、文字や静止画の方が記憶に定着しやすい場合もあります。



「動画は制作が簡単になった」という誤解


確かにスマートフォンの高性能化により、誰でも動画を撮影できるようになりました。しかし、効果的なビジネスコンテンツを制作するには、企画力、構成力、編集技術など、依然として高度なスキルが必要です。特に、情報を正確かつ魅力的に伝える動画を作るには、相当な経験と専門知識が求められます。



「動画はすべての人にアクセシブル」という思い込み


実際には、視覚や聴覚に障害のある方々にとって、適切な代替テキストや字幕がない動画は、むしろ情報障壁となります。また、通信環境が不安定な地域や、データ通信量を節約したい視聴者にとっても、動画は必ずしも最適な形式とは限りません。



「動画は必ずウェブサイトのコンバージョン率を向上させる」という誤解


確かに適切に制作・配置された動画は、商品説明やサービス紹介において効果を発揮することがあります。しかし、不適切な動画の使用は、ページの読み込み速度を遅くしたり、ユーザーの集中を妨げたりして、かえってコンバージョン率を低下させる可能性があります。



「ライブ配信は録画より効果が高い」という思い込み


ライブ配信には確かにリアルタイムでの視聴者とのインタラクションという強みがありますが、すべての状況でそれが最適とは限りません。技術的なトラブルのリスクや、視聴者の時間的制約を考慮すると、録画コンテンツの方が適している場合も多くあります。



誤った認識が広がる背景


  • 「簡単な解決策」への過剰期待


デジタルマーケティング業界では、効果的な情報発信や集客に悩む中で、「動画さえ制作すれば視聴者が集まる」「動画なら確実に情報が伝わる」といった単純化された解決策が魅力的に映ります。従来の手法で成果が上がらない状況では、新しい手法への期待が必要以上に高まりやすく、これが動画コンテンツの効果を過度に強調する言説を生んでいます。



  • サービス提供企業による誇張


動画制作・配信サービスを提供する企業のマーケティング戦略が、誤解を助長しています。これらの企業は自社サービスの価値を最大化して見せるため、動画の効果に関する数字を都合よく解釈したり、特定の成功事例のみを強調したりします。「動画は文字の⚪︎,000倍の情報量」といった科学的根拠の疑わしい数字が広く流布されているのは、こうした商業的な意図が背景にあります。



  • ソーシャルメディアの影響


ソーシャルメディアの急速な発展と短尺動画の爆発的な普及が、この現象に影響を与えています。TikTokやInstagramでの動画コンテンツの成功は、「動画は必ず効果がある」という誤った一般化を生み出しやすい環境を作っていますが、これらの成功は特定のコンテキストに限定されたものです。



  • 手軽さと質の混同


スマートフォンの高性能化により、誰でも簡単に動画を撮影・編集できるようになった一方で、質の高いコンテンツ制作に必要な専門性や労力が軽視される傾向があります。「簡単に作れる」ことと「効果的なコンテンツを作れる」ことの区別が曖昧になっています。



  • DXへの焦燥感


デジタルトランスフォーメーション推進に伴う焦りが、安易な動画活用を促進しています。多くの組織が急速なデジタル化への対応を迫られる中で、「とにかく動画を作らなければ」という焦燥感が、十分な戦略のないコンテンツ制作につながっています。



  • わかりやすさへの過度な期待


情報過多の現代社会では、複雑な情報を「わかりやすく」伝えることへの要求が高まる中で、動画が安易な解決策として捉えられています。しかし、真の「わかりやすさ」は、媒体の選択だけでなく、内容の適切な構成や表現方法に依存します。



動画・映像の特性を正しく認識


これらのような複合的な要因により、動画コンテンツの効果を過度に単純化し、誇張する言説が生まれ、広がっています。しかし、こうした安易なアピールは、結果として効果的なコミュニケーション戦略の構築を妨げる可能性があります。重要なのは、各メディアの特性を正確に理解し、目的や状況に応じて適切な手法を選択することです。


動画は確かに強力なコミュニケーションツールの一つですが、それはあくまでも多様な選択肢の中の一つに過ぎません。安易な一般化や誇張を避け、科学的な検証に基づいた効果測定と、戦略的な活用を心がけることが、真に効果的な情報発信につながるのではないでしょうか。

マーケティングのプロであるあなたでも、その企画はほんとうに有効でしょうか。

動画・映像制作会社の意見もいちど聞いてみてください。


動画マーケティング

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