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頭出しの要不要が映像・音声演出にもたらした変化

Tomizo Jinno

頭出しとは


前世紀における「頭出し」とは、磁気テープを読み取る再生ヘッドや、レコードのピックアップ(針)を、再生を開始したい音源ポイントよりも少し手前に戻した位置で停止させておくことを指しましたが、今世紀では単に、録音、録画されたコンテンツの中で必要な部分の頭の位置を探し出し、行っている生放送、収録、MA作業などのためにスタンバイすることを言います。


頭出し

アナログ時代における頭出し


頭出しの必要性


テープレコーダーやターンテーブル(レコードプレーヤー)は、モーターで駆動していました。そのため、再生開始直後は回転数が安定せず、正規の回転数に達するまでにわずかな時間を要しました。頭出しは、この回転数の不安定な時間を考慮し、意図したタイミングで音源を再生するための重要な作業でした。



頭出しの方法


アナログ時代終盤期の技術では、テープレコーダー、ターンテーブルともに「3分の1(回転)戻し」が適切な戻し量とされていました。これは、音源の開始位置からテープやレコードの3分の1回転分だけ手前に戻すことを意味します。

これを時間にすると1、2秒になりました。

頭出ししたポイントは無音状態であることが理想でしたが、頭出ししたポイントに音声が含まれている場合もありました。そのような場合は、再生開始直後はボリュームを絞っておき、回転が安定した後にボリュームを上げるという方法がとられました。



頭出しが演出にもたらした影響


アナログ時代において、音響技術者やディレクターは、頭出しによる「音声の間」を日常的に経験していました。そのため、演出においてもこの間(空白)つまり、1、2秒の空白を有効活用し、会話と音楽のリズムを心地よくしたり、番組を区切ったりするなど、独特の表現方法が生み出されました。

もちろん、空白を生じないよう先行してスタートさせるという技術にも磨きが掛かり、例えばDJの喋りを音楽によって絶妙に演出しました。そこには制作・技術・出演者たちとの「あ・うん」の呼吸がありました。



ビデオ技術における頭出し


ビデオ技術においても、テープ録画再生では、テープを巻いたリール(ハブ)をモーターで回転させる必要がありました。編集機能を持つVTRでは、編集点を決めると自動的にテープを少し戻した位置で停止させる「プリロール」という機能が搭載され、初動時の回転不安定を回避していました。




デジタル時代における頭出し



デジタル技術が主流となった現在でも、頭出しは様々なコンテンツに対して行われています。しかし、立ち上がりが遅い機械的な駆動を伴わないメディアでは、再生開始したいポイントの直前で停止させればよいため、従来のような「間(空白)」に対する価値観は大きく変化しました。



「間(空白)」の消失


機器の進化とデジタル化により、音源の頭出しはより正確かつ迅速に行えるようになりました。これにより、演出の幅は広がり、より意図通りに複雑な表現が可能になりました。しかし一方で、アナログ時代のような「間(空白)」を活用した独特の演出は失われつつあります。音声の空白に我慢ができないというひとたちも増えました。


映像や音声の演出を考える上で、アナログ時代には技術的な制約が演出法に影響を与えていたわけですが、技術の進歩があらゆる面での創作の自由度を高めたことで、現実にはむしろ表現の幅が狭まっているように思うのは私だけでしょうか。




間(空白)の役割


1. リズムとテンポの形成


間は、音楽における休符や、会話における沈黙と同様に、リズムとテンポを生み出す要素となります。適切な間は、単調な流れに変化を与え、聴く人を飽きさせない効果があります。


2. 感情表現の強調


間は、感情を表現する上で非常に有効な手段です。例えば、悲しいシーンでは、長めの間を置くことで、登場人物の悲しみや苦しみをより深く表現することができます。また、緊張感のあるシーンでは、短い間を置くことで、緊迫感を高めることができます。


3. 情報の整理と理解の促進


間は、情報を整理し、聴く人の理解を助ける役割も果たします。例えば、プレゼンテーションやスピーチでは、重要なポイントの前に間を置くことで、聴衆はその情報をより意識しやすくなります。また、会話においても、適切な間は、相手に考える時間を与え、よりスムーズなコミュニケーションを促進します。


4. 聴覚的な休息


間は、聴く人に聴覚的な休息を与える効果もあります。現代社会は、騒音に満ち溢れており、常に何かしらの音を聞いている状態です。そのような状況下では、意図的に間を設けることで、聴く人は一時的に音から解放され、リラックスすることができます。


5. 想像力の喚起


間は、聴く人の想像力を喚起する力も持っています。例えば、ラジオドラマやオーディオコンテンツでは、音が途切れる瞬間に、聴き手はそこで何が起こっているのかを想像力を働かせて補完しようとします。この想像力が、コンテンツへの共感を高める要素の一つとなります。




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