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Tomizo Jinno

映像制作者から見た映画2時間越えとタイムパフォーマンス

1月5日(日)付け、日本経済新聞朝刊に以下のような記事が掲載されていました。

(ネットは有料記事です)

「タイムパフォーマンス=タイパ」という視点から解説を試みています。しかし、興行映画とは異なりますが、同じ映像をつくる仕事をしている身として、映画の長尺化をタイパという視点で論じようとすることには違和感を感じます。



視聴離脱されるわけ


主として企業PR映像を制作する私にも、クライアントからは必ず「できるだけ短く」と要請されることが日常化しています。長い映像は誰も見ない、必ず視聴離脱するから、と言います。しかし、長年の経験から言えることはたったひとつ「つまらないから視聴離脱する」ということです。

自分自身で制作した映像、他人が制作した映像、どちらを見ても、例え1分の映像でも15秒でやめたくなる映像があれば、1時間を超える映像の中途離脱率が50%以下という例も知っています。


映画の尺


映画の尺が伸びている理由


映画(番組)の視聴環境が、映画館からネット配信に比重が移るにつれて、収益構造にも大きな変化が現れたことが、長尺化のひとつの要因にもなっているようです。つまり興行的には1日に何回も観客を入れ替えて繰り返し上映したいことと、テレビ放送の放送枠を理由に、映画館や配給会社には映画は2時間以内という暗黙の了解があったものが、ネット配信という時間枠の制約がない媒体が、大きな収益を上げていることから、次第に優秀な製作者の戦場がネット配信界に移ってきたためです。

優秀な製作者から産出される優れたコンテンツの尺が2時間の制約から解き放たれたこと。そして「長い」と感じさせて、つまらない映画(番組)という評価を受けないために、視聴離脱させないためにとことんカットした上での2時間オーバーであることが、密度が濃いエンターテイメントを産んでいるのではないかと思います。



ネット配信が可能にした倍速視聴


映画館で上映されている映画を、倍速再生してくれとは誰も言えませんが、個人で視聴しているネット配信コンテンツは自在にスピードコントロールできる環境を提供してくれます。そうとなれば、視聴者は「つまらない」と感じた瞬間に再生を停止するか、せっかく見始めたのだから(料金を払っていることもある)最後まで視聴して「見たことにしておきたい」というのは、人間の自然な行動かも知れません。

通常再生する視聴者は「エンターテイメント体験」、倍速再生する視聴者は「情報収集」という異なる行動であることを理解しておきたいと思います。

これらから言えることは


・優れたエンターテイメント作品であれば長尺であっても視聴離脱などしない。

・見始めた、ないしはトレンドを把握したいコンテンツなら、倍速視聴をしてまでも(倍速視聴自体タイパが悪いのに)見る


という事実に過ぎません。至極シンプルな人間心理だと思います。



得られる教訓


「我々BtoBの企業PR映像を制作する者は、あまりにつまらない映像コンテンツを生産して、ネットに掲載してきた。」これに尽きると思います。クライアントに「BtoBの企業PR映像はつまらない」と、そう思わせてしまったのです。このことに対策する時、重要なことを忘れてはいけません。

「BtoBの企業PR映像はマスメディアコンテンツ・エンターテインメントではない」ということです。


BtoBの企業PR映像は、世間全般に向けたものでも、誰かを楽しませるものでもありません。ひとえにPRしたい企業が、PRしたいターゲットに対してパーソナライズして、有益な情報を提供するためのものです。そいう意味で「つまらない映像」を作ってきたのです。そして、「視聴してもらうべき視聴者に届ける努力を怠ってきた」のです。

「長いコンテンツは見られない」という短絡的な基準が出来上がってしまったのは、我々の業界の責任です。



映像づくりは科学ではない


視聴者が「つまらない」と感じ始める時間、説得力のある物語の記述にどれだけの時間が必要かを、正確に計算できる公式はありません。

私がただひとつ言いたいことは、「つまらないのは尺の問題ではない」ということです。


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