1980年代後半に登場しミレニアムの頃まで全盛を極めたVHSテープの寿命が、そろそろ尽きる時期が到来している・・・これをビデオテープの2025年問題と言うそうです。巷の専門業者にはテープ→デジタルメディアへの変換(ダビング)依頼が激増しているそうです。
ビデオテープの寿命とは
私も所持していた結婚式のビデオや思い出の記録はすでに.mp4などに変換して保存してありますが、5年ほど前に行った時点ですでに、テープには数多くの信号障害が発生していました。一般に「テープの傷」と言われますが、テープのスタートストップや早送りを繰り返すと、テープに折り目のような山(溝)ができて、こうした症状が出ます。しかし、この症状はビデオデッキとの「相性」ということが稀にあるので、ノイズが困る場合、デッキを替えてみると症状が出ないこともあります。もうひとつは重なったテープの磁気の転写です。これはもうどうしようもありません。
引退するビジネス映像制作スタッフ
ところで、VHSの栄枯盛衰と同様に、ビジネス映像制作業界においてもかつての熟練の演出家やカメラマンたちが、そろそろ完全引退するという2025年問題を、今年一年を終えてみて感じます。ここ地方都市名古屋の場合、それは顕著です。一般社会では、かつてないほどの「動画の時代」などと囃されているものの、それによって激増したのは、
①カメラや編集の高度化にる画質の高品位化に依存
②顔出しして喋っているだけ
この2種類の“動画クリエーター”です。
「ショート動画」を求める視聴者と、生活の糧を求める「YouTuber」が要因です。彼らがこれまでなかった分野を開拓したという功績は認められるものの、「一辺倒」であることが、映像本来の存在理由である「ドラマツルギー」に立脚した映像技術を、片隅に追いやることとして、私は懸念しています。
映像制作におけるドラマツルギーの本質
ドラマツルギーとは、物語を構成し、観客に感情や共感を呼び起こすための技術、あるいはその理論体系を指します。映像制作においては、単に映像を繋ぎ合わせるだけでなく、物語の構造、登場人物の行動、そしてそれらが視聴者に与える影響を深く考察することが求められます。
ドラマツルギーの核となるのは、「起承転結」といった基本的な構造です。映像作品では非線形的な物語展開やフラッシュバック、伏線など、様々な手法を用いることができます。これらの手法は、単に観客を驚かせるためだけでなく、物語の深みを増し、視聴者に思考を促すために用いられます。
さらに、ドラマツルギーは、登場人物の行動原理や動機を深く掘り下げることにも焦点を当てます。なぜ登場人物はそう行動するのか、その背景にある感情や欲望を描き出すことで、観客は登場人物に共感し、物語に感情移入することができます。
映像表現においては、カメラワーク、照明、編集など、様々な要素がドラマツルギーに影響を与えます。例えば、あるキャラクターに焦点を当てるためのクローズアップ、緊張感を高めるための手持ちカメラ、過去の出来事を回想させるためのフェードイン・アウトなど、これらの技術は、物語の展開を効果的に表現し、観客の感情を揺さぶるために用いられます。
ドラマツルギーは、単に物語を伝えるだけでなく、観客に思考を促し、共感を呼び起こし、そして感動を与えるための、映像制作における重要な知見であり技術です。
時間と行動によってしか得られないこと
現代社会では、肩書きや資格があれば、その分野の専門家とみなされる傾向があります。しかし、映像制作においては、経験値は単なる時間だけでなく、その間にどれだけ深く映像制作に取り組み、様々な経験を積んだかによって決まります。幅広い社会経験や長年にわたる人間観察なしには、映像表現の奥深さを理解し、効果的な映像作品を作り出すことはできません。
変革の2025年へ
ビジネス映像制作の世界での熟練の映像制作者の引退は、単に技術やメディアの移り変わりというだけでなく、映像表現の本質であるドラマツルギーが失われつつあることを意味しています。
手軽に動画を作成できるツールが普及したことで、誰でも映像クリエーターになれる時代になりました。しかし、高画質で面白い動画を作ることは、必ずしも良い映像作品を作ることに繋がるとは限りません。
映像作品は、単に情報を伝えるだけでなく、観客の心に何かを残すものです。そのためには、物語の構造、登場人物の心理、映像表現の技術など、多岐にわたる知識と経験が必要です。
テレビ放送を見ていると、ドラマ番組においては演出家だけでなく、脚本家や出演者として若い才能がどんどん育っていることを感じます。これはドラマ制作事業予算に WEBからの収入が貢献しているからでしょう。
ビジネス映像制作業界においても、WEBをうまく使いこなす工夫などで、収益構造の変革が始まる2025年にしたいものです。
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