編集イベントの増加
ここでの「イベント」とは、コンサートやスポーツのイベントとは異なり、ビデオ編集における個々の作業工程を指す専門用語です。かつてのフィルムやテープ時代、特にカット編集のみを行う場合、10分程度のビデオパッケージでは通常100から130程度のイベント数で収まっていました。しかし、現代のノンリニア編集システムでは、その数は数百にも及びます。この劇的な増加の背景には、映像表現の細分化だけでなく、各カットに対して実施できる多様な効果が関係しています。例えば、画面の拡大縮小、トリミング、透過効果、画面内でのダイナミックな動きなど、以前では考えられなかったような表現が可能となり、一つの画面に重ねられるレイヤー数は2層や3層にとどまらず、5層、時には10層以上に及ぶことも珍しくありません。そのため、動画ファイルやテロップの綿密な管理が不可欠となっており、これを怠ると後の修正作業時に必要なファイルの特定が困難となり、制作現場が混乱に陥る原因となります。
ディレクターとエディターの関係性の変化
従来のテレビ番組や映画製作の世界では、編集作業を専門のエディターに一任するスタイルが主流でした。現在でもその形態は存在していますが、特にBtoB領域における映像制作、すなわちビデオパッケージの制作においては、特別大規模なプロジェクトを除き、ディレクター自身が編集機器を操作して作業を行うのが標準となっています。さらに注目すべき変化として、高度な映像効果が必要な部分のみポストプロダクションに依頼するという従来の手法も、近年では急速に減少傾向にあります。
納期の短縮化と迅速なレスポンスの必要性
タイムパフォーマンスの効率化は、現代の映像制作における重要な課題です。特に短納期プロジェクトが増加する中、素早い編集作業と修正対応が不可欠となっています。加えて、WEBを活用したオンライン試写システムの普及により、試写から修正、再試写というサイクルが短期間で何度も繰り返されることが一般的となり、さらには顧客からも要求されるようになってきました。このような状況下では、その都度エディターのスケジュール調整を行うような従来の制作フローでは、効率的な業務遂行が困難となっています。
予算面における変化
多数のスタッフが関与する大規模な制作体制は、現在ではテレビドラマや映画、あるいは予算規模の大きいCM制作などに限定されています。一般的なBtoBビジネス映像の制作現場では、大人数のタレントを起用する撮影時を除き、編集以降のプロセスはディレクター一人で管理・遂行することが多くなっています。
技術民主化の変化
高度な映像技術の汎用化も重要な変化の一つです。かつては専門家の領域とされていた高度な編集技術、例えば画面内の要素を自由自在に操作したり、人物を合成したり、不要な看板を消去したりといった作業が、現在では一般的なソフトウェアで容易に実現可能となっており、専門技術者への依頼が不要となってきています。そのいっぽうでディレクターが習得すべき技術はさらに拡大しています。
ディレクターの仕事はMulti taskでDetailed workに変化
このような背景から、現代の映像制作業界、特にBtoB領域においては、ディレクターが編集作業を担当することは当然の前提となっています。サブカメラの操作も常識。さらには、ドローン操作、インターネット配信に関する技術や知識を備え、可能な限り一括して案件の相談に対応できる多機能型のクリエイターであることが、仕事を獲得するための必須条件となってきているのが現状です。
今後も映像制作の現場は変化し、ディレクターの仕事はますますMulti taskなDetailed work化が進行するかも知れません。
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