視聴者の関心度と専門性の違い
情報の深度と構成の違い
時間設定の考え方
訴求ポイントの設定
制作アプローチの違い
BtoB映像における「事実」の意味
説得力のある事実の選定と切り口
事実の裏付けと検証
事実に基づく企画立案のプロセス
事実の効果的な表現方法
結論
企業で映像を外注する窓口になる方も、日常的には一般視聴者の立場でマスメディアを通して映像を目にしているため、いざ自身がBtoB-PR映像を企画する側に回ると、どうしてもマスメディアに適した動画を想像してしまうようです。映像制作会社に相談をくださる企業のご担当者の多くが、動画=マスメディアコンテンツという先入観をお持ちです。
ぜひ、ご再考いただきたい誤解です。
近年のデジタルメディアの急速な発展により、TikTokやInstagramのリール、YouTubeショート等に代表されるショート動画の台頭が著しく、企業の映像制作においても「短く」「わかりやすく」という制作指針が金科玉条のように語られています。確かに、一般消費者向けのコンテンツにおいては、この原則は重要な意味を持ちますが、企業間取引(BtoB)における映像コンテンツは、本質的に異なる性質を持つものであり、安易にこの原則を当てはめることは適切ではありません。
視聴者の関心度と専門性の違い
BtoC映像が想定する視聴者は、必ずしもその内容に強い関心を持っているとは限りません。むしろ、関心の薄い視聴者をいかに引き付けるかが重要な課題となります。そのため、短時間で注目を集め、メッセージを伝達することが求められます。
これに対し、BtoB映像の視聴者は、その内容に対して明確な目的意識と関心を持っています。例えば、新規の製造装置の紹介映像を視聴する企業の購買担当者は、その装置の詳細な仕様や性能に関する情報を求めています。このような視聴者に対しては、簡略化された情報ではなく、充実した専門的な内容を提供することが不可欠となります。
情報の深度と構成の違い
BtoC映像では、広く一般的な理解を得ることを目的とするため、情報を単純化し、わかりやすく整理することが重要となります。専門用語の使用は最小限に抑え、視覚的な説明や比喩を効果的に用いることで、複雑な情報も理解しやすい形で提示する必要があります。
一方、BtoB映像では、視聴者の専門性を前提として、より詳細な技術情報や運用データ、費用対効果などの具体的な情報を論理的に構成することが求められ、むしろ、過度な単純化や一般化は、必要な情報の欠落につながる危険性があります。
時間設定の考え方
「短く」という原則は、BtoC映像において確かに重要な要素です。注意力の持続時間が限られる一般視聴者に対しては、簡潔な内容で効果的なメッセージ伝達を図る必要です。
しかし、BtoB映像においては、必要な情報を十分に伝達することが最優先されべきです。例えば、工業製品の技術説明映像では、製品の特徴、性能データ、使用方法、保守管理など、詳細な情報を漏れなく提供することが求められますが、短時間に情報を詰め込むことは、かえって理解の妨げとなる可能性があります。
訴求ポイントの設定
BtoC映像では、感情的な訴求や印象的なビジュアル表現が重要な役割を果たします。製品やサービスの魅力を、感覚的に理解できる形で表現することが求められます。
これに対し、BtoB映像では、論理的な説得力が重要となります。具体的なデータや技術的優位性、導入効果など、客観的な事実に基づく説明が中心となり、感情的な訴求よりも、合理的な判断材料を提供することが重要です。
制作アプローチの違い
これらの違いを踏まえると、BtoB映像の制作アプローチは、BtoC映像とは異なる視点で検討される必要です。具体的には以下のような点に注意を払う必要があります。
企画段階での情報収集において、製品やサービスの技術的特徴、市場での位置づけ、競合との比較など、より専門的な調査が必要です。
シナリオ作成においては、技術的な正確性と論理的な構成を重視し、必要に応じて専門家の監修を受ける必要があります。
撮影や編集においては、技術的な詳細が正確に伝わるよう、適切なアングルや画面構成を検討する必要があります。
インターネット時代の映像制作において、「短く」「わかりやすく」という原則は、確かに重要な指針となります。しかし、これはあくまでもBtoC映像における原則であり、BtoB映像では視聴者の専門性と目的意識を踏まえ、必要な情報を十分な深度で提供することが求められます。したがって、企画立案の段階から、BtoBとBtoCの本質的な違いを理解し、それぞれの特性に応じた適切なアプローチを選択することが、効果的な企業映像制作の鍵となります。
BtoB映像制作における事実の重要性
― 企画立案の核心となる「説得力のある事実」の発掘と活用 ―
BtoB映像における「事実」の意味
BtoB映像の企画において、最も重要な要素は「事実」です。ここでいう事実とは、その企業が実際に保有する技術力、実績、ノウハウ、研究開発の成果、品質管理体制など、客観的に証明可能な要素を指します。例えば、製造業であれば、独自の製造技術や品質検査システム、農業関連企業であれば、長年の研究から得られた栽培技術や品質管理ノウハウなどが該当します。
これらの事実は、企業の競争力の源泉であり、他社との差別化要因となります。BtoB取引において、取引先となる企業は、このような具体的な事実に基づいて取引の可否を判断します。そのため、映像制作においても、これらの事実を中心に据えた企画立案が求められます。
説得力のある事実の選定と切り口
ただし、企業が持つすべての事実を列挙すれば良いわけではありません。訴求目的に対して説得力を持つ事実を選び出し、効果的な切り口で提示することが重要です。例えば、製造装置の販売促進が目的であれば、その装置が生み出す製品の品質データや、生産効率の向上を示す具体的な数値などが、説得力のある事実となります。
また、これらの事実をどのような視点から切り取り、どのような文脈で提示するかという「切り口」も重要です。例えば、同じ品質管理体制という事実でも、「徹底した品質へのこだわり」という切り口で見せるのか、「効率的な生産体制」という切り口で見せるのかによって、訴求効果は大きく異なってきます。
事実の裏付けと検証
選定した事実については、必ず裏付けとなるデータや証拠を用意する必要があります。BtoB映像では、視聴者である企業の担当者が、提示された情報を詳細に検討することを前提としなければなりません。そのため、説得力のある事実は、必ず検証可能な形で提示できるものでなければなりません。
例えば、「業界トップクラスの性能」と主張する場合、それを裏付ける具体的な性能データや、第三者機関による評価結果などが必要です。また、「豊富な導入実績」を強調する場合も、具体的な導入事例や成果データを準備する必要があります。
事実に基づく企画立案のプロセス
事実に基づく企画立案は、以下のようなプロセスで進めることが効果的です。まず、企業が保有する事実を網羅的に洗い出します。次に、それらの事実の中から、訴求目的に対して最も説得力を持つものを選定します。そして、選定した事実を最も効果的に伝えられる切り口を検討します。
この過程では、営業部門や技術部門など、社内の関連部署との緊密な連携が不可欠です。なぜなら、重要な事実が現場レベルに埋もれていることも少なくないからです。また、選定した事実の正確性や、提示方法の適切性についても、専門部署による確認が必要です。
事実の効果的な表現方法
選定した事実は、映像ならではの表現手法を用いて効果的に伝える必要があります。例えば、製造プロセスの特徴を示す場合、通常では見ることのできない工程を高速度撮影や特殊カメラで可視化したり、データの推移をグラフィカルに表現したりすることで、より説得力のある形で提示することができます。
ただし、ここでも重要なのは、表現技法が事実を正確に伝えることを助ける手段として機能しているかどうかです。視覚的な演出が事実の本質を歪めたり、不必要に装飾的になったりすることは避けなければなりません。
結論
BtoB映像の企画において、説得力のある事実の発掘と、その効果的な切り口の設定は、成功の鍵を握ります。これは、BtoB取引における意思決定が、感覚的な好みではなく、客観的な事実に基づいて行われるためです。したがって、企画者は、クライアント企業が持つ事実を丹念に掘り起こし、訴求目的に沿って最適な形で構成する必要があります。
そして、この作業は単なる事実の列挙ではなく、創造的な企画力を必要とする専門的な仕事です。事実の中から真に価値のある要素を見出し、それを効果的に伝えるストーリーを構築することで、はじめて説得力のある映像コンテンツが生まれるのです。
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