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映像制作時の絵コンテについて

はじめて映像制作を発注する時

わからないことは多いですよね。とくに、どうやってイメージを摺り合わせるのか、何をもって映像の設計図あるいは仕様書とするのか、よくわかりませんよね?

プロダクションによって、あるいは作る映像のジャンルによって、また制作期間、発注経緯によって、摺り合わせの方法が千差万別であることが、この業界がまだ未成熟である表れとも言えます。


産業映画勃興の頃

かつて、主に映画屋さんやテレビ局の子会社が映画製作や番組制作の片手間に?産業・企業映画を作っていた時代(1980年頃まで)は、業界内の習慣をそのまま、お客様である一般業界に持ち込んで「これがシナリオです」と、映画や番組の制作方法と変わらない「台本」をつくり「見積書」と合わせてクライアント提出していました。提案物はこれだけです。

 見積書は、その台本に書かれている項目を数え必要撮影日数を拾い出し単価を掛け、演出家や脚本家は総予算の5%とか10%という目安、選曲や編集の技術料は10分刻み(完成尺)で単価が決まっている、というものでした。そうすると、よくある地方自治体の広報映画のような場合、制作期間が半年から1年、予算はだいたい1,000万円くらいでした。


台本は文字しか書かれていない

当時の台本は、あくまで台本であって、企画書でもデザインボードでもありません。文字の羅列しかないので、素人ではいったいどんな映像が出来上がるのか、よくわからないまま「ああ、この行事入っていますね」「この説明文は少し直してください」というやりとりだけあって「はい、ではお願いします」となっていました。

  

偉そうな人に作っていただく映画

作り手が「映画作りは素人にわからないから、お任せなさい」という姿勢であったことは否定出来ない事実です。僕はそうした「業界ぶって偉そうに」する営業スタイルがとても嫌いで、いつも反発していたことを覚えています。

 でも、映画が出来上がって試写をすると、必ず「ほ~っスゴイですなあ」と大喜びされることも常でしたから、プロダクションが偉そうに振る舞ってしまうのも仕方がない時代だったかも知れません。フィルムの時代の映像製作は技術的、資金的なハードルが高く、一般世間には映像を作れる人は特殊な技能を持っているように見えていたのでしょう。

  

脱線してしまいました。

お任せ仕事で映像の実験場ではあった

映像をつくることは特殊な技術や感性が必要だからプロに任せておけば良い。という時代は、ついこの前まで続いていたように思います。何千万円、何億円という機材、設備を使って撮影、編集するのだから予算は高額で当たり前。映像の内容に口を出そうものなら、難しい用語であれこれ言われて、追加予算を請求されかねない。だから黙って出されるものに納得していたのかも知れません。何よりも、身近な風景や人々が映像になるということ自体が非日常の時代でしたから。制作関係者は、自分がいいと思う企画を存分に試すことができた、幸せな時代でした。


今では誰でも作れる映像世界

さて現代では、映像なんて自分で撮影も編集もできてしまう時代。プロに任せようと考えるのは、プロならではの高度で安定した技能で、効果的な映像を作りたいと考える時。ある程度の企画の骨子やイメージは自分で持っていて、その先の作業を任せたいということが殆どです。自身で企画のイメージは持っていますので、映像の世界観やトーンがどうなるのか、とても気になります。だから、提案時はより具体的な映像の流れ、世界観を知りたいと考えることは宜なるかなです。

  

そこで登場するのが、絵コンテやストーリーボード、デザインボードと呼ばれるビジュアルコミュニケーションツールです。


絵コンテと映像制作会社

  

まず「絵コンテ」

これは、シナリオ(シーン(カット)、ナレーション、セリフ、ト書き、音楽等をテキストで時系列に記述した書類)の流れに対応して、そのシーンの代表的なカットを描いた手描きの絵やイラストレータ、フォトショップといった作画ソフトで描いた画像が添付されます。企画提案の時期ならば、代表的なシーンだけで、なんとなくイメージしてもらえるようにしますが、制作工程が進んでくると、全てのシーン、全てのカットの絵を要望されることもあります。


絵コンテは制作スタッフ相互のためのものだった

少し前までは、カット毎の絵コンテは制作スタッフ間での情報共有のためでしたが、現在は撮影後、制作後の修正を避けたい場合、クライアントとのコミュニケーションにおいても、絵コンテを使って事前での確認を執拗に行う場合が増えてきました。

 更には、この絵コンテを実際の流れ(時間)にあてはめてタイムラインに並べて、スライドショー(いちおう動画?)にした「アニマティックス」というものまで作成して、制作後の完成形イメージを共有しようという流れもあります。

 

「デザインボード」

制作する映像作品の代表的なシーンの世界観やキャラクターを、写真、イラストやCG、グラフィックデザインなどを加えて、シーンの数だけ作画。作品全体のイメージ、トーンの摺り合わせ、修正、共有のためのツールです。

 

「ストリーボード」

デザインボードで承認を得た世界観の中で、実際に制作する映像の流れ通りにカット割りし、その全てに画像をはめ込んだ、要するに絵コンテと同様ではあるけれど、その絵は動いていないだけで、ほぼ完成形に近いものです。


イケル!と思えて始めて描き始める絵コンテ

さて、さて、

絵コンテもデザインボードも、実はもうここまで描けていたら、シナリオライターの仕事はほぼ全部、演出家の仕事も半分はもう終わっているようなものです。

 なんといっても、まだ影も形もない映像を脳裏の中で、破綻なく構築出来ることが確認できるまで、ふつう演出家は絵コンテを描き始めません。後先考えずに描き始めても途中で破綻してしまうことが多いからです。

ですから、絵コンテを描き始める時は、頭の中で「イケル」と思った時。描き終えたら「ああ、これで(もう)できた!」という感じです。


絵コンテを見ないとわからないと言われる時代

最近は低予算の制作案件でも、企画コンペが増え、しかも絵コンテを付けないと「わからない」と言われる時代です。

 

だいたい何が言いたいかおわかりいただけると思うのですが、絵コンテまで描けたら、もうその映像はできているも同然の状態。どんな小さな案件でも構想するのに数日から1週間、コンセプトを構築して、シナリオの流れをつくるのに数日。絵コンテを描き込むのにはさらに数日が必要です。だいたい2週間くらいは頭のなかそればっかりになって作り上げた企画書(+絵コンテ)をクライアントにプレゼンする、というのが企画コンペです。

 絵コンテの絵の上手い下手は映像には直接的に関係ないことなんですが、どうしてもプレゼン時には絵の完成度が企画の印象を左右してしまうので、持ち出し覚悟で絵コンテライターに外注せざるを得ないことも、とても悩ましい問題。

 もちろん、納期がありますから、制作に必要なスタッフや機材、設備、スタジオ、出演者等のスケジュール調整や仮押さえも終えて臨みます。(もうできたも同然!)

 

こうして僕ら製作会社は企画コンペには、全精力を注ぎ込んで臨みますから、クライアントのみなさん、どうかコンペにする時、そのことはあまり軽く考えないで下さいね。

 

という不満話が書きたかったわけではなくて・・・

 

絵コンテというコミュニケーションに代わるもの

この絵コンテというコミュニケーション方法、発注者・制作受注者間の齟齬を無くす意味においては有効なのですが、必ずしもよりよい映像づくりに貢献しないということなんです。

 

プレゼン用の絵コンテというのは、制作会社にとっては、オリエンテーションやヒアリングで与えられた限られた情報、不十分な情報(クライアントの内部に隠れている未だ知らぬ情報はたいてい沢山あるのです)の中で考えたに過ぎない、仮想、想定の上でのアイデアなんです。

 実際には受注後クライアントとのコミュニケーションを通じて、様々な情報が入ってくると、事情も大きく替わり、より良い映像のアイデアもドクドク湧いてくるのですが、クライアントはだいたい企業ですから、いちど書類で決済されてしまった絵コンテは、おいそれとは変更できないばかりか、担当責任者の方の中には、絵コンテと違いない映像を作り上げることに心血を注ぐ方さえいます。

 

テレビCMを見ていると、だいたい絵コンテが目に浮かぶというか、絵コンテの静止画を動かしただけでないの!?という事例も頻見される今日このごろ。クライントと制作会社とのイメージ共有、より楽しい映像づくりのために、もっといい方法がないものか、思案する僕なのです。

 

絵コンテと映像制作会社


 


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